人材生かした菓子工房 ―日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」10/30号

人材生かした菓子工房 ―日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」10/30号
2017-11-06

「切って、切って、ぐるりんぱ」「握ってぎゅ、握ってぎゅ」。
この合言葉で、生産性が4倍にあがり、ヒット商品も生まれたといったら、
信じるだろうか。

これは、ある障がい者施設の実話だ。
この施設には菓子工房があり、障がい者が焼き菓子をつくっていた。

しかし仕事をなかなか覚えられず、
1人あたりの生産量は1日2千円分程度しかできなかった。

そんな菓子工房を劇的に変えたのが、「3pm(さんじ)」代表の横田美宝子さんだ。
同社は薬膳の考え方を活かした料理や菓子などを製造販売していて、
横田さんは新たな菓子をつくるため、指導に加わった。

横田さんの提案に、施設の職員は、とても驚いた。
「これまでつくった菓子よりもさらに難易度が高いケーキをつくろう」と言い出したからだ。

マーガレットを模したそのケーキは、
上品な雰囲気が漂い、有名パティシエが創作したかのよう。
梅酒や大豆たんぱくなど多様な素材を用い、しっとりとした食感に仕上げる必要もある。
障がい者に難題を押しつける結果になるのではと、誰もが心配した。

しかし、横田さんには妙案があった。
作り方を分かりやすく伝えれば、障がい者も楽しみながら、できるはずと考えたのである。

そしてたどりついたのが、冒頭の「合言葉」だった。
「3回こねて……」などとマニュアル的に指導するのではなく、
生地をこねたり切ったりする方法を音やイメージで伝えたのだ。

この方法は見事にハマった。
これまで覚えるのに苦心したのが嘘のように、スムーズに作業をこなせるようになった。
障がい者たちは自信をもち、他の仕事にも意欲的に取り組みはじめた。

それまで昼の休憩に入ると、多くの人が午後の始業に遅刻していたのが、
定時に戻るようになった。

結果、生産性はぐんぐん向上。
1人あたりの生産量は1日8千円と4倍になった。

マーガレットケーキの仕上がりの良さから、
今では、三越や高島屋といった百貨店の催事で売れるヒット商品に成長している。

この話は、障がい者に限った話ではない。
「有能な人材がいない」と嘆くビジネスパーソンは多いが、
いま働いている人材を活かすのもマーケターの仕事だ。


なぜなら顧客に商品を分かりやすく伝えるスキルがマーケティングだが、
社員に仕事を分かりやすく伝えるのも、同じスキルで対応できるからだ。

3pmが手がけたように、
音やイメージの工夫により、業務の段取りを指示すること、
一瞬にして仕事が効率的になることも多い。


ある別の職場では、残業を減らすことを長い間、呼びかけていたが、一向に減らない。
そこで業務終了時に、学校のように授業終了のチャイムを鳴らした。
すると、とたんに残業時間が減ったという。

ビジネスは日々、高度化し、複雑さを増している。
しかも人手不足だ。

この問題をチャンスととらえ、ちょっとした知恵や、
社員が力を合わせることで大きなブレイクスルーを生む事例が増えている。


あなたの会社には、社員が力を合わせるための「合言葉」があるだろうか?


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